歴史の読み誤りは、欠点のある政策を生み出す

「北朝鮮は、アメリカの一部に到達できる能力を持つ核兵器開発の最終段階にあると言った。」去年の金正恩の新年の演説の翌日に、当時のトランプ次期大統領はこうツイートした。「それは起こらない。」

(Photo: KCNA)

北朝鮮の指導者は、このトランプの宣言を実現可能にした。彼は、信頼性の高い核兵器と大気圏再突入用ロケットを持つICBMを披露する前に、実験を行うことをやめた。トランプ大統領が本気で交渉し約束を守る準備があるなら、彼の望みは実現するかもしれない。しかし、首脳会談で金正恩に対して、核を廃棄するかしないかのどちらかだ、という通告を金正恩に突きつければ、彼の望みは実現しない。ジョン・ボルトンは、経済制裁と戦争の脅しによってトランプが影響力(レバレッジ)を得られるという間違った信念から、そういうアドバイスをするかもしれないが、正恩は、実験を再開する可能性というさらに大きな影響力(レバレッジ)を保持している。

もしトランプが敵対政策を終わらせて北朝鮮の行動に報いる措置をとると約束すれば、金正恩は非核化を約束し、武装解除のためのさらなる措置をとる覚悟があるかもしれない。アメリカの敵対政策を終わらせることは、彼の祖父や父の過去30年間の目的であったように、今も金正恩の目的である。

冷戦中、金日成は自らの戦略を自由に進めるために、中国とソ連を争わせた。1988年、ソ連の崩壊を予期した金日成は中国への過剰依存を避けるために、アメリカ、韓国、日本との根本的な関係改善に取り組んだ。それ以降はずっと、これが金政権の目的であり続ける。

北朝鮮政府側からしてみれば、この目的が1994年の米朝枠組み合意に至った根拠となっている。この合意では、米政府が「政治的・経済的関係の完全な正常化」または、簡単な表現に言い換えると、「敵対政策の終わり」を約束している。これは、2005年9月の6カ国協議共同声明での最重要点でもある。この声明では、米政府と北朝鮮政府は「相互の主権を尊重すること、平和的に共存すること、及び二国間関係に関するそれぞれの政策に従って国交を正常化すること」そして、「朝鮮半島における恒久的な平和体制について協議する」ことを約束している。

米政府にとってこれらの北朝鮮との合意は、北朝鮮政府の核兵器とミサイル開発を停止させるためのものであった。米朝枠組み合意により約10年間、北朝鮮の核分裂性物質の製造や、中・長距離ミサイルの発射実験は止められ、2007年から2009年にかけても同じであった。しかし、米政府が関係改善のために約束を守ることをほとんどせず、そして北朝鮮政府が非核化を守らなかった時、これら2つの合意は決裂した。

いわゆる専門家たちはこういった歴史を無視してはならない。以下に、典型的な右派の見解を述べる。

1994年に、ビル・クリントン政権は「米朝枠組み合意」の取引のもとで、北朝鮮に重油を含む大規模な経済援助を行った。その代わりとして、北朝鮮は核開発の凍結を約束した。

予想通り、北朝鮮指導者は嘘をついた。北朝鮮は支援だけは熱心に受け取りながら、核開発を急速に進めた。

ジョージ・W・ブッシュ政権は、北朝鮮の核開発を阻止するため、2003年に中国、日本、北朝鮮、ロシア、韓国、アメリカによる「6カ国協議」を調整した。アメリカとその同盟国らは再び経済援助を行い、金正日政権を攻撃しないことを約束した。その代わりとして、北朝鮮政府は「全ての核兵器と既存の核開発」を廃棄することに書面で合意した。

またしても、北朝鮮はナイーブな西欧諸国を出し抜いた。北朝鮮は、アメリカの譲歩を、それに報いるべき寛大さでなく、利用すべき弱みだと解釈した。2006年、北朝鮮は核実験を行った。

これは、フーバー・インスティテューションのビクター・デイビス・ハンソンが3月22日にThe National Reviewに寄稿した記事である。

この記事でハンソンはトランプにこうアドバイスしている: 「北朝鮮への経済制裁を強化せよ。懇願や脅迫があっても、いかなる経済支援もしてはいけない。中国にはさらに圧力をかけよ。北朝鮮が核兵器を保有していないことを証明するまでは、北朝鮮とは取引をするな。」

歴史の読み誤りは、欠点のある政策をもたらす。

これは右派だけに限った問題ではない。外交問題評議会(CFR)のスコット・スナイダーは、National Public Radioでこう書いている。北朝鮮は「アメリカに比べて弱いことや、北朝鮮の核開発を止めるためのアメリカの繰り返しの努力にも関わらず、(北朝鮮は)アメリカの交渉官を混乱させ、どんな手段を使ってでも核開発の継続を主張してきたことで知られている。」

スナイダーはまた、ウラン濃縮を無視したことの責任がブッシュ政権にあるとしている。

「10年前の6カ国協議では北朝鮮の巧みな交渉により、アメリカ側はウラン濃縮の問題を交渉の議題に含めることを犠牲にしてまで、爆弾製造のためのプルトニウム生産という差し迫った問題に対処せざるをえなかった。北朝鮮はまた、核開発の全ての面における検証作業に制限を設けるために、交渉の対象を寧辺の5000キロワット原子炉に絞り、監視作業も寧辺に限定した。当時6カ国協議のアメリカ側首席代表であったクリストファー・ヒルは、北朝鮮の非核化を始めるために都合の良い方法だとしてこういった制限を受け入れたが、北朝鮮全体の核開発の包括的な検証が始まる前に、このプロセスは決裂した。」

これは歴史的に間違っている。2007年10月3日のフェーズ2合意で北朝鮮は「全ての核開発の完全で正しい申告」を約束したが、検証作業はその次のフェーズ3に持ち越された。しかし、申告されたプルトニウムの総量がアメリカ側の推定よりやや低かったため、この申告内容の正確さが疑われた。これを受けてクリストファー・ヒル首席代表は、北朝鮮から寧辺の原子炉、再処理工場、燃料製造工場の3つの施設でどれだけのプルトニウムをこれら施設で生産されたか判断するのに十分であろう「サンプリングやその他の法医学的措置」を行うことへの同意を北朝鮮から口頭でとりつけた。

ウラン濃縮活動に関してではなかったが、2008年10月11日の国務省発表によれば、ヒル首席代表はまた、「双方の合意に基づいて未申告の場所への立ち入り」の合意も取り付けた。韓国と日本はこの合意は書面に残すべきだと主張し、これに対して北朝鮮側はこれはフェーズ3で正式に交渉した上で解決すべき問題だとして応じなかった。それに対して韓国は約束したエネルギー支援を反故にすることで、合意を守らなかった。

韓国のこの行為を無視し、スナイダーはこう結論づけている。「10年前の6カ国協議での「行動には行動で」(つまり、国交正常化と経済支援との引き換えとして非核化をするという取引の形式)から立ち去るという北朝鮮の決断は、核問題を外交的に解決しようという試みに大打撃を与えた。」

もちろん、彼が指す「取引」はそんなものではなかった。

スナイダーにとって、問題は北朝鮮が責任を果たしているか確認することをアメリカ側が怠ったことではなく、大統領がこの問題にしっかり注意を向けなかったことだとしている。

クリントン政権は北朝鮮に合意をしっかりと履行させるように行動しなかった。クリントン政権が合意履行に十分な注意を向けなかったことで、爆弾製造のための材料確保のため、近道を取って最終的には代替として秘密裏にウラン濃縮を行う余裕を北朝鮮に与えることになった。

都合の良いことに、この記事は北朝鮮が2002年10月にウラン濃縮を交渉の議題にあげたという事実を見落している。当時ボルトンのような強硬派らが主導したブッシュ政権は交渉に応じず、1994年の米朝枠組み合意を反故にした。

スナイダーの論点は、アメリカではなく北朝鮮が「行動には行動を」という形式を拒否したというものだ。「北朝鮮は、交換条件で取引するのではなく、同じやり方を続けながら、過去の北朝鮮の要求に対する譲歩をまんまと手に入れた」と彼は書いている。

これは、金正恩が今月韓国特使に伝えたことではない。韓国の声明では、「北朝鮮は朝鮮半島の非核化の意志を見せた。北朝鮮は自国への軍事脅威がなくなり、政権の安全が保証されれば核兵器を保有する理由はないことも明確にした。」「非核化の問題」について協議することにも合意したわけだが、韓国はその後、これには製造施設の廃棄も含まれる可能性があると発表している。

過去の教訓を全く読み誤った根拠を元に米朝首脳会談へのアプローチ方法を考えるのではなく、トランプ大統領は現在の金正恩が発言を実行する意志があるのかどうかを試すべきだ。

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