北朝鮮との交渉に関する、トランプ大統領へのアドバイス

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40年近くにわたって北朝鮮情勢を追い続け、政府高官級交渉への出席やKEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)と北朝鮮側の協議を主導してきた元米政府の官僚として、北朝鮮との交渉がどういうものなのか、lアドバイスをしたい。特に、ニコラス・エバースタット氏がワシントン・ポスト紙に寄稿した論説「北朝鮮との対話は、ゼロ・サム的なゲームである。このゲームのしかたは、こうである」に反応したい。彼は優秀な研究者であり賢い人物だが、北朝鮮と直接顔を合わせて交渉したことがないせいか、見解が事実から随分とかけ離れている。

北朝鮮の交渉官勢は本気を出す時は優秀であるが、アメリカの交渉官以上に秀でているわけではない。北朝鮮は外交の基本的な所作を身につけているだけあって、生産的な交渉の一連のやりとりは他国のどこでも行われている交渉と同じパターンだ。つまり、解決することが双方にとって利益となるような問題が何であるかを明確にし、問題を部分的に区分し、容易な問題から難解な問題へと移り、詳細を調整して合意内容を明確にし、双方が何に合意し何に合意していないかを明確にするために再び内容を見直し、履行に関する詳細とスケジュールについて協議する、という一連のやりとりだ。

双方が合意したと言わない限りは、何の合意にも達したことにはならない。対話の議題を何にすべきかをコントロールしようとすることは良からぬ考えである。北朝鮮側は、自分たちで設定した議題に基づいての交渉にアメリカが応じないと分かっているように、アメリカも北朝鮮側がそのような条件は飲めないことを知るべきだ。交渉の席で、最初に提案を出すことで傷つくことはないし、北朝鮮は相手の行動に反応する態勢であることが多いので、その結果、アメリカ側が先手を打てることが多い。

北朝鮮が後になって、重要な合意内容について見直しを迫ってきた例は見たことがない。それよりもよく起きるのは、そこまで重要度の高くない内容に関して双方がその意味を共有していると思っていたら、実は重要な部分で理解を異にしていたことを発見する、ということである。(幸運なことに通常は交渉が終わる前に発覚することだ。)さらに通訳者を介することで、双方の理解を同じにすることがさらに難しくなる。このため、帰国を急ぎたいアメリカ代表団の望みとは反対に、交渉のペースが遅くなることもあった。

ウィン・ウィンという言葉は、私が知る限り、ひどく嫌がられる言葉である。なぜなら、この言葉は空しいスローガンとなってきたからだ。それでも、この言葉の本質は重要であり、この本質は北朝鮮がよく理解していることでもある。北朝鮮もアメリカも望むもの全ては手に入れられないが、双方がそれぞれ重要だと考えることを得ることはできる。そうでなければ、合意などあり得ない。過去12年の間に私が北朝鮮と行ってきた全ての交渉において、北朝鮮もアメリカも強硬な姿勢で交渉に臨んだ。しかし、北朝鮮はアメリカに恥をかかせたり面目を失わせようとしたことは一度もなかった。北朝鮮が母国に帰れば、彼らは勝利を宣言し、我々も勝利を宣言した。

アメリカ側が本国と安全に連絡をとる方法を欠くということを除けば、平壌で会談を行うことは悪いことではない。コミュニケ―ションの問題においても回避策はあるし、連絡をとる他の方法を見つけることもできる。北朝鮮側にとっては、代表団が北朝鮮の高官級の策定者らにすぐに連絡がとれるという点で、平壌での会談には利点がある。

我々は、北朝鮮が交渉の場で好ましくないことをすれば、必ず不満を伝えてきた。アメリカの交渉官が北朝鮮のそういった好ましくない行為に対して説教をしている間、暑く、汗臭い、風通しの悪い部屋で長時間座っていたことは何回もある。同時に、アメリカ側が好ましくないことをすれば、同じように北朝鮮から不満を言われることは覚悟しなくてはいけない。幸運なことに、米朝による直接対話を重ねるごとにこういった出来事も減っていった。北朝鮮がテーブルをたたくようなことはまれだった。北朝鮮が好ましくないと思う点をアメリカが指摘すると、相手側の反応は静かに眼鏡を外し、手帳を静かに閉じ、ペンを横に置くことだった。

アメリカが「善意での」譲歩をするのは見たことがない。しかし、北朝鮮がアメリカによる特定の行為に関しての当初の頑固な主張から、「アメリカがこれとこれを行うという確約に基づいて」であればということで、アメリカが求めた特定の措置をとることを後から受け入れた、という例はある。双方が取り組んできた原則は、「行動には行動を」と「同時に措置を取る」というものだったが、前者を守るために、後者が現実的ではない時もあった。

北朝鮮との高官級の会談は、私の経験では、ゼロ・サム的ゲームではなかった。我々が最も望まないことは、北朝鮮をそのゲームに無理やり押し込んでしまうことだ。

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